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印鑑に見る歴史─璽印の時代と篆刻流派の時代
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政治の変動と商業の発達により、戦国時代には璽印が盛んに作られました。齊、燕、晋、楚、秦の五つの地域ではそれぞれ異なる特色が見られます。奇字古文は印面を特異多彩なものにしました。

秦漢により中国が統一されると、印鑑は規格化に向かいました。官印の印形、印鈕も一定の規則が設けられ、私印もまた規格化されましたが、多彩なものが多くありました。

魏、秦、南北朝は漢の制度を継承しましたが、印鈕の様式は変化しました。駝鈕、馬鈕などの異族印は、大らかな印風に質朴とした味わいを添えました。

竹木簡を書写に用いる習慣は、この頃じょじょに紙に取って代わり、書簡に封をする「封泥」もまたしだいに「朱」が用いられるようになりました。朱紅で紙に印を押すのが新しい様式となったことから、隋、唐代以降の官印はますます大きくなり、宋、元、明、清代の官位を表す印記は非常に大型なものとなり、官印と私印はしだいにはっきりと分かれていったのです。以上が璽印(主に銅印)時代における発展史の概要です。

唐、宋代から元代の文人たちの用いた私印の多くが、まず印影を写して印稿とし、工匠に鋳刻を依頼したものです。元代末期、王冕が初めて花乳石を刻した印鑑を使い、明代の文彭、何震が篆刻に力を注ぎ、印篆(印専用の字形)、刀法、側款(辺款:印材側面の作者の署名)も大きく発展、当時の古印譜刊行の気風に合わせて、文人による印鑑の製作が非常に盛んになりました。

清代に至ると、流派は分裂してそれぞれの個性を発揮し、清から民国時代になると、名家が輩出して刀法も更に精巧なものとなりました。古いものから新しいものが生み出され、篆刻の技法にも更なる変化が加わり、空前の盛況となったのです。以上が篆刻流派時代における変遷の概要です。

清朝旧蔵の銅印は璽印時代の重要な史料の一つです。各界より寄贈された石章は、近現代における篆刻流派に関する貴重な文物であり、歴史を伝えてくれるものです。

最も優美な璽印─戦国時代の古璽

商(殷)周代に誕生した璽印は、春秋戦国時代になると、政治の変動と商業の発展により、「証明」という機能が切実に求められるようになり、いわゆる「蘇秦佩六国相印」、「古璽」は、そのような背景の下、大量に製作されました。

精緻な印型、文字などを巧みに配置した印面が戦国古璽の特色です。また、特殊な印文の結構は、「言語異声、文字異形」という戦国時代の混沌とした歴史の証でもあります。

立木之璽
立木之璽
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宜有百金
宜有百金
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秦文の統一─秦漢代の

秦始皇帝が天下を統一すると、文字の混乱も同時に終わりを告げました。秦の文字で編纂した「倉頡篇」などの字書が字形を確定し、世に広まりました。詔書の多くが刃物で銘文を刻したものであったため、ほとんどの秦印が、「田」や「日」などの文字に似た方形の枠に限られていますが、自由な表現に素朴な面白味があり、実に味わい深いものです。

漢代の初めは秦の制度を継承し、じょじょに規範が増えました。美しく整った四字方形の漢篆の配置が漢印最大の特色です。新莽鋳印の多くが五字印で、印鈕もすばらしいものです。後漢印の文字は堂々として、細部に至るまで変化に富んでいます。晩期になると、しだいに型通りで粗雑な作りとなり、「急就」という新たな様式が出現しました。

之寀言事
之寀言事
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張參印信
張參印信
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力強さと豪放さ、変形字体─魏晉南北朝の印

魏、晋代以降、楷書が一般的な字体となり、古篆は実用的ではなくなりましたが、古きを慕う心情の下、簡素化され変形した篆字が、墓誌や題銘、印鑑に刻されました。

鋭利で力強い風格と大らかで豪快な風格という新しい印風のほか、印鈕の多彩な様式、子母套印、多面印などもこの時代の特色です。

魏興太守章
魏興太守章
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魏烏丸率善長
魏烏丸率善長
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朱の九疊篆と花押─唐宋元明の印

紙と印刷技術の普及が印鑑の用い方を変え、封泥にかわって朱が使われるようになりました。印面は大きくなり、丸く屈曲した九疊篆のほか、隷楷書の官私印も出現しました。宋、元代には署名式の花押が流行し、趣を高めました。

遼、西夏、金、元─それぞれ独自の文字があり、鋳印の際は漢文の篆字体の配置に倣い、印鑑史におけるもう一つの流れとなっています。

為善最楽
為善最楽
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八思巴文印
八思巴文印
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玉情瑤怨
玉情瑤怨
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筆の如く彫刻刀をふるう─明清代の篆刻

文人たちによる篆刻は明代中晩期に興り、文彭、何震などが秦漢古印の素朴な味わいに倣い、当時の悪風を正したことで知られており、個性的な印風を生み出し、呉門(文彭)、徽(何震)、婁東(汪関)などの流派が誕生しました。

清代中葉、乾隆嘉慶時代に金石学が盛んとなり、題材もより幅広いものとなって、印文、印風ともに大きな変革が生じました。浙派(西泠八家:丁敬、蒋仁、黄易、奚岡、陳豫鐘、陳鴻寿、
趙之琛、銭松、楊澥など)と皖派(鄧石如、呉熙載など)が清代晩期に影響を与えました。
また、趙之謙は、印面や側款に工夫を凝らして大胆に彫刻刀をふるい、新たな境地を切り開きました。

張爰長壽
張爰長壽
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豪放と洗練 それぞれの美しさ─清末から民国の篆刻

清代晩期、各大家にはそれぞれの風格がありましたが、その表現方法は異なり、雄壮で個性的な風と洗練された力強い風─この二種類に大別できます。

洗練された力強い風格は、鄧派の趙仲穆、徐三庚らが新浙派(胡匊鄰、趙時棡)を興し、黟山派(黄士陵、李尹桑、鄧爾雅)などがおり、精緻な朱白文を手がけた福庵、趙鶴琴、方介堪、陳巨來、曾紹杰などに影響を与えました。

雄壮で個性的な風格は、呉昌碩、齊白石の二大家が主に挙げられ、呉派の渾樸(銭痩鉄、王个簃などの継承者がいる)、奔放な風の齋派があります。そのほか、趙古木、鄧散木は独自の世界を築き、その技法の変化は呉平が受け継いでいます。

王壮為は、初め黟山、後に呉派を学び、二派の美点を取り入れました。台静農は書家の筆と文人の性を以て篆刻し、熟練の妙に達しています。


多讀補多忘
多讀補多忘
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互いの思い─方寸に思いを託す

姓名と字号、書斎の収蔵読書印記、祝福や祈願の言葉のほか、一般に「閒章」と称するものは、多くが詩文の心情を述べた字句などで、或いは箴言や激励、吉語、祈りの言葉、詩文を引用して情趣を託し、または心情を文として彫り、美しい詩句、優れた篆字、精巧な刀法が合わさって、「詩、書、印」三者一体となっています。それらの印は書画作品、典籍、冊頁、書簡に用いられ、読み手にその心情を深く感じさせます。また、側款を見ると、篆刻家がその印を製作した所以が見て取れ、人の思いは尊く、のびのびとそれを記し、倦むことなくそれを読み、「思いを文に託す」感が深まります。


さまざまな書体─印文の字体

篆刻は「篆書」を印文の主体とし、古篆は三千年の歴史を有しています。印鑑史を振り返ると、古璽、秦漢印の封泥、魏金印、唐宋九疊篆、元朱文など、多種多様な風格が見られます。それらの印のほか、商(殷)周代の甲骨金文、東周の盟書簡帛、兵器、貨幣、陶文、石刻、漢碑、篆額、唐代篆書、古文の模写などの変化があります。また、唐、宋代以降の隷楷書印、書史における真草隷篆各書体などが、印面と側款に複雑に用いられ、「篆刻」の世界に奥深さと広がりを増しています。

璽印篆刻史は、三千年の漢字発展史であり、金石刻鋳の書法芸術史でもあるのです。

大千世界(鳥蟲篆)
大千世界(鳥蟲篆)
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張爰之印(九疊篆)
張爰之印(九疊篆)
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