書籍中の稀少品
図書とは本来、知識をまとめて記載したものにすぎませんが、古書の印刷や装丁様式は今日のそれとは大きく異なり、紙製文物の保存が難しいことも加わって、現代にまで伝えられた書物の数量は非常に少ないため、歴史的にも文物的にも古書は「骨董」の一つとなっています。「天禄琳瑯」蔵書には、宋、遼、金、元、明─五朝の善本が含まれ、非常に幅広い分野の図書が収録されており、稀少な孤本も少なくありません。中国各時代における刻版印書の優れた技巧が表れているほか、図書発展の変遷過程を示すとともに時代的な意義も有しています。現存する「天禄琳瑯」蔵書は、嘉慶の『欽定天禄琳瑯書目後編』に収録された典籍を基にしており、乾隆時代に編纂された『欽定天禄琳瑯書目』に見られないものもあります。ここでは、『天禄後編』に記載のある善本典籍を主体として、時代性と地方的な意義を有する版本を選び、「天禄琳瑯」蔵書の貴重な名書としてご紹介します。
『周髀算経』 漢 趙嬰注 唐 李籍音義 清康熙間毛氏汲古閣景写宋嘉定六年(1213)鮑澣之汀州重刻元豊監刊御題算経七種本之一
故善002005-002006二巻音義一巻 二冊 見開きサイズ:33.5 × 41 cm
乾隆帝は希少価値の高い善本を、書画を鑑賞するかの如く扱い、しばしば自ら筆を取り御筆題識を書き入れた。それらは「天禄琳瑯」蔵書中の珍品中の珍品とされている。『周髀算経』は、現存する最古の数学書であると同時に、天文学の著作である。巻頭に乾隆帝の御題がある。本書は清康煕帝時代、毛氏汲古閣・毛晋の次男である毛扆が、王世貞、李開先、黃俞邰という三名の蔵書家からそれぞれ入手した『算経』七種で、いずれも鮑澣の重刻本である。字画は美しく整い、影模の彫りも実に見事で、常熟・毛氏の技巧は高く、古書界では「毛鈔」と称される。
『春秋経伝集解』 晉 杜預撰 宋淳熙間撫州公使庫刊配補乾道間江陰郡本及明覆相台岳氏本
故善001253-001277存二十七巻 二十五冊 見開きサイズ:26 × 32 cm
晋杜預編纂の『春秋経伝集解』は、経と伝を一つにまとめたもので、『左伝』は『春秋』を説明する作品とし、字句の訓詁という古い形式から離れた、解釈学的意義を有しているといえる。隋唐時代の後、『春秋経伝集解』はしだいに経学の正統的地位を獲得した。本書は三種の異なる刻本を一組としている。一冊目は宋淳煕年間撫州公使庫刊本、二冊目は宋乾道間江陰軍学刊本、三冊目は巻二十九、明覆元初相台岳氏荊渓(宜興)家塾の刻本である。
『孔氏六帖』 宋 孔伝撰、宋乾道二年(1166)韓仲通泉州刊本
故善014256-014274存二十九巻 十九冊 見開きサイズ:26 × 31 cm
『孔氏六帖』とは、宋代孔伝仿照唐白居易『白氏六帖』という意味で、唐代以来の典籍中の典故詞語や優れた詩文を分類して収録した類書である。もともとの書名は『六帖新書』というが、後人が『白氏六帖』の続編として『孔氏六帖』と改名した。原書は宋室南渡後の紹興初年に成立し、乾道2年(1166)に初刻本が作られた。南宋末年、書房が『白氏六帖』と『孔氏六帖』両書を合わせて刊行した。元から明代に至ると、書房で見られるものの全てが合刊本となり、単独で刊行された書は無かった。本書の伝本は『文淵閣書目』と『天禄後編』に記載があるのみで、非常に貴重である。書中に「文淵閣印」があることから、もともとは明内府の蔵書で、その後民間に紛れ込んで山西の按察使・宋筠の所蔵となったため、「臣筠」と「三晋提刑」二印があるが、最後に清宮廷の所蔵となったと思われる。本書は貴重な初刻本であり、後世の伝本校正に用いる最良の底本である。『戦国策』 宋 鮑彪注 元 呉師道校注 元至正二十五年(1365)平江路儒学刊本
故善002270-002276存八巻 七冊 見開きサイズ:26 × 32.5 cm
本書は元代・呉師道が宋代・鮑彪注の『戦国策』に注釈を加え、戦国時代から秦、漢にかけて活躍した縦横家の言辞や機知などの歴史的故事を読者によりわかりやすくした書物である。元代の官刻は地方各路の儒学と書院に重きが置かれ、それぞれにその学術と版刻の重要性があり、非常に優れたものといえる。元代政府は系統的に教育の普及を進めた。中央には国子監があり、全国の各路、府、群、県に儒学を配置して学校を設立した。儒学の刻書の費用は学田(学校運営費用を賄うための田畑)の収入を主としていた。刻書の質量ともに歴代刻書中の良品であるため、歴代の士人や学者の好評を博した。本書は儒学刊本を代表する書物の一つである。
『文献通考』 元 馬端臨撰 元泰定元年(1324)西湖書院刊元明遞修本
故善002277-002336三百四十八巻 六十冊 見開きサイズ:33 × 38.5 cm
『文献通考』は、宋代の典章制度研究のための重要な参考書である。元成宗大徳11年(1307)に成立した。本書は元代において最も著名な杭州西湖書院刊本で、優美な字体、紙面の割付などもすっきりと見やすく、印刻は実に見事である。元本を代表する作といえ、版刻後の書版は再版のために西湖書院に保存されたため、刻本は比較的広く伝わっている。
『周易伝義大全』 明 胡広等奉敕撰 明正徳內府刊五経四書大全本
故善012880-012891二十四巻 十二冊 見開きサイズ:35 × 38 cm
『周易』に注釈を加えた著作は歴代を通して多数あるが、北宋・程頤の『程氏易伝』と南宋・朱熹の『周易本義』が最も影響力がある。本書は明代の翰林院学士・胡広などが大作二部を合わせ、多数の先人の注釈も取り入れて『周易伝義大全』として編纂した。内府刊本である。明代内府刻書は司礼監が主導し、「経廠」が専門に書籍を刊刻したため、「経廠本」とも称される。経廠刻書は割付も見やすい上に字も大きく、文も読みやすく区切られ、白棉紙を用いた美しい印刷である。明代初期から末期にかけて変わることなくこれが踏襲され、清代初期の宮廷刻書にも影響を与えた。
『文中子中説』 隋 王通撰 宋 阮逸注 王福畤書 明嘉靖癸巳(十二年、1533)呉郡顧氏世徳堂刊六子本
故善007693-007696十巻 四冊 見開きサイズ:26 × 30.5 cm
明代には私人の刻書が非常に流行した。初期の刻本は種類もあまり多くなく、印刷数も比較的少ないが、明代中期以降は日増しに盛んになり、とりわけ正徳から嘉靖年間にかけて瞬く間に発展した。『世徳堂六子全書』は古本をもとにしており、広く書籍を集めてさまざまな解釈を加え、校勘なども優れた著名な版刻のため、もともとの牌記を取り除いて世徳堂刻本と偽り金儲けをする商人が少なくない。
『東坡書伝』 宋 蘇軾撰 明 淩濛初序 明呉興淩氏刊朱墨套印本
故善013120-013127二十巻 八冊 見開きサイズ:26.5 × 30 cm
『東坡書伝』は、蘇軾の重要な経学の著作三部(『易伝』、『書伝』、『論語説』)の一つで、『尚書』研究の成果であり、蘇軾が儋州に流された時期(元符3年5月)に完成した。明代には套版印刷(重ね刷り)が流行し、書房はより大きな利益を上げるため、見事な重ね刷りによって印刷の質を高めた。その代表的な人物の一人が呉興淩氏である。呉氏は墨色の刊印原文に句読点と説明などを朱色で加え、天頭(天)に朱筆校注の『東坡書伝』とあり、大きく整った文字は目を楽しませてくれ、紙は玉の如く清らかな白さで、読者が読みやすい形式の刊刻として世に知られている。

