展示概要
デジタル時代が訪れる前、書籍は人類の歴史的な発展や、文明の裾野を広げるための知識の伝達に最も重要なツールでした。その間に行われた相互の交流は複雑に絡み合い、時間軸を横に断とうが縦に割ろうが、いたる所から現れる種々様々な紋様は、その詳細を明らかにする意義があります。そして今、私たちがこれらの伝世文物に再び親しもうという時、一種独特な対話が交わされる場面に改めて加わることになるだけでなく、その時の生命のあり方に最もそぐわしい結び付きが、そこから生じるはずです。
国立故宮博物院では、21万冊を超える善本古書を所蔵しています。かつて北平故宮博物院に収蔵されていた清朝旧蔵図書を中心に、各界からの寄贈や依託、調査に基づいて新規購入されたものもあり、数量はそれほど多くありませんが、内容は多岐に渡り、実証的研究に役立つ素材が多く含まれており、東アジアの歴史や文明の宝庫というに相応しいものです。版本の校勘から学術思想、物質文化、書籍の流伝、ないしは古物の来歴や収蔵までの経緯を考察する上で重要な資料だと言えます。
この度の特別展では、故宮の蔵書の精粋とその特色を五つのコーナーに分けて展示します。中国史上、初めての皇家秘蔵善本コレクション「天禄琳琅」、故宮の蔵書を代表する国宝級の叢書「四庫全書」、明清代の宮廷に献上された、漢語とチベット語の仏教経典、東アジアの伝統的な学術や図書出版にまつわる交流が知れる楊守敬の「観海堂蔵書」、激動の時代を経て多種多様な書籍を収蔵した旧国立北平図書館の貴重な善本などをご覧いただきます。各種各様の古書たちが、文物に内包される知識や技芸、美感を語ってくれます。そして、人々が書籍の編纂や制作、鑑蔵、閲読を通して、真実を求め、善を尊んだ精神と、途切れることなく文化を継承してきたその信念を伝えてくれるでしょう。書物の道、その勝景は果てしもなく続き、ふと目を留めれば佳趣が広がり、その道を歩みつつ喜びに浸ることができるのです。